「Wi-Fiに繋いだだけで、なぜかインターネットが使えるようになる」
普段何気なく使っているこの便利な仕組み、実はDHCPというサービスのおかげなんです。IPアドレスを手動で設定しなくても、自動的にネットワークに参加できるのは、DHCPが裏で働いてくれているから。
この記事では、DHCPの仕組みと役割について、初心者向けにわかりやすく解説します。
DHCPとは?
「IPアドレスを自動で配る係」
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、ネットワークに接続した機器にIPアドレスを自動的に割り当てる仕組みです。
日本語で言えば「動的ホスト構成プロトコル」。難しそうに聞こえますが、やっていることはシンプルです。
DHCPがなかったら…
もしDHCPがなければ、ネットワークに接続するたびに手動でIPアドレスを設定しなければなりません。
- スマホをWi-Fiに繋ぐたびに設定画面を開いてIPアドレスを入力
- 会社の全パソコンに1台ずつ、かぶらないIPアドレスを設定
- 間違えたら通信できない、重複したら両方トラブル
想像するだけで大変ですよね。DHCPのおかげで、こんな面倒から解放されています。
DHCPが配布する情報
DHCPはIPアドレスだけでなく、ネットワーク接続に必要な様々な情報をまとめて配布します。
| 配布される情報 | 役割 |
|---|---|
| IPアドレス | 機器を識別するアドレス |
| サブネットマスク | ネットワークの範囲を示す |
| デフォルトゲートウェイ | 外部ネットワークへの出口 |
| DNSサーバー | 名前解決を行うサーバー |
| リース期間 | IPアドレスの有効期限 |
これらの情報が一度に設定されるので、ユーザーは何も考えずにネットワークを使い始められるのです。
DHCPの仕組み(4つのステップ)
DHCPでIPアドレスが割り当てられるまでの流れを見てみましょう。「DORA」と覚えると便利です。
Step1:Discover(発見)
ネットワークに接続した機器(クライアント)が、「DHCPサーバーいますか?」とネットワーク全体に呼びかけます。
この時点ではまだIPアドレスを持っていないので、ブロードキャスト(全員宛て)で送信します。
Step2:Offer(提供)
DHCPサーバーが呼びかけを受け取り、「このIPアドレス使っていいよ」と提案します。
まだ確定ではなく、「このアドレスを予約しておくから、使うなら連絡してね」という状態です。
Step3:Request(要求)
クライアントが「そのIPアドレスをください!」と正式に要求します。
複数のDHCPサーバーから提案があった場合、最初に届いたものを採用するのが一般的です。
Step4:Acknowledge(確認)
DHCPサーバーが「OK、そのIPアドレスを使っていいよ」と承認します。
これでクライアントは正式にIPアドレスを使用開始できます。
| ステップ | 送信元 | 内容 |
|---|---|---|
| Discover | クライアント | DHCPサーバーを探す |
| Offer | サーバー | IPアドレスを提案 |
| Request | クライアント | IPアドレスを要求 |
| Acknowledge | サーバー | 使用を承認 |
この4ステップは一瞬で行われるので、ユーザーが意識することはほとんどありません。
リース期間とは?
DHCPで割り当てられるIPアドレスには「有効期限」があります。これをリース期間と呼びます。
なぜ有効期限があるの?
IPアドレスは無限にあるわけではありません。もし一度割り当てたIPアドレスがずっと使われ続けると、新しい機器に割り当てるアドレスがなくなってしまいます。
リース期間を設けることで、使われなくなったIPアドレスを回収して、他の機器に再利用できるようになっています。
リース更新の流れ
- リース期間の50%が経過 → クライアントが更新を要求
- サーバーが承認 → リース期間がリセット
- 更新に失敗した場合、87.5%経過時点で再試行
- それでも失敗したら、期限切れでIPアドレスを返却
普通に使っていれば自動的に更新されるので、意識することはありません。
リース期間の設定例
| 環境 | リース期間の目安 |
|---|---|
| オフィス | 8時間〜数日 |
| 家庭 | 1日〜1週間 |
| カフェ・公共Wi-Fi | 1〜2時間 |
| イベント会場 | 30分〜1時間 |
人の入れ替わりが激しい場所では短め、固定的な環境では長めに設定するのが一般的です。
DHCPサーバーはどこにある?
家庭の場合:ルーター
家庭用ルーターには、通常DHCPサーバー機能が内蔵されています。だから特別な設定をしなくても、Wi-Fiに繋げばIPアドレスが割り当てられます。
企業の場合:専用サーバー
企業では、専用のDHCPサーバーを立てることが多いです。Windows ServerやLinuxサーバーでDHCPサービスを動かします。
規模が大きい場合、DHCPサーバーを冗長化(複数台構成)して、障害に備えることもあります。
クラウドの場合:マネージドサービス
AWSなどのクラウド環境では、VPC内で自動的にDHCPが提供されます。EC2インスタンスを起動すると、自動的にプライベートIPアドレスが割り当てられます。
静的IPと動的IPの使い分け
DHCPで割り当てる「動的IP」と、手動で設定する「静的IP」は使い分けが必要です。
動的IP(DHCP)が適している場合
- クライアントPC、ノートパソコン
- スマートフォン、タブレット
- ゲスト用端末
- 頻繁に入れ替わる機器
静的IPが適している場合
- サーバー(Webサーバー、ファイルサーバーなど)
- ネットワーク機器(ルーター、スイッチ)
- プリンター
- IPアドレスが変わると困る機器
DHCPで固定IPを割り当てる方法
「DHCPは使いたいけど、特定の機器には毎回同じIPを割り当てたい」という場合、DHCPの予約機能(IPアドレス予約)を使います。
機器のMACアドレス(物理アドレス)と、割り当てたいIPアドレスを紐付けておくことで、毎回同じIPアドレスを割り当てられます。
DHCPのトラブルシューティング
DHCPに関連するトラブルと対処法を紹介します。
IPアドレスが取得できない
考えられる原因:
- DHCPサーバーが動いていない
- DHCPサーバーとの通信ができない
- IPアドレスが枯渇している
確認方法(Windows):
ipconfig /all
確認方法(Linux):
ip addr
cat /var/lib/dhcp/dhclient.leases
IPアドレスの競合
同じIPアドレスが複数の機器に割り当てられると、通信障害が発生します。
考えられる原因:
- 手動設定とDHCP範囲が重複している
- DHCPサーバーが複数ある(意図しない「野良DHCP」)
169.254.x.xというアドレスになる
DHCPサーバーからIPアドレスを取得できなかった場合、APIPA(Automatic Private IP Addressing)により自動的に169.254.x.xのアドレスが割り当てられます。
このアドレスではインターネットに接続できないので、DHCPサーバーとの接続を確認しましょう。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| DHCPとは | IPアドレスを自動的に割り当てる仕組み |
| 配布される情報 | IPアドレス、サブネットマスク、ゲートウェイ、DNS |
| DORA | Discover→Offer→Request→Acknowledge |
| リース期間 | IPアドレスの有効期限(環境に応じて設定) |
| 使い分け | クライアントは動的IP、サーバーは静的IP |
DHCPは、普段意識することなく私たちのネットワーク接続を支えてくれる縁の下の力持ちです。仕組みを理解しておくと、ネットワークのトラブル対応がスムーズになりますよ!