「オブザーバビリティって監視と何が違うの?」「最近よく聞くけど、なぜ注目されてるの?」
近年、インフラ運用の世界でオブザーバビリティ(Observability)という言葉が注目されています。従来の「監視」とは何が違うのでしょうか?
この記事では、オブザーバビリティとは何か、なぜ重要なのかを初心者向けに解説します。
オブザーバビリティとは?
「観測可能性」という意味
オブザーバビリティ(Observability)は、日本語で「観測可能性」と訳されます。もともとは制御工学の用語で、「システムの内部状態を、外部からの出力だけで理解できる度合い」を指します。
IT分野では、「システムの内部で何が起きているかを、どれだけ把握できるか」という意味で使われます。
監視との違い
従来の「監視(モニタリング)」とオブザーバビリティは、似ているようで異なります。
| 項目 | 監視(モニタリング) | オブザーバビリティ |
|---|---|---|
| アプローチ | 「何を見るか」を事前に決める | 「何でも見られる」状態にする |
| 対象 | 既知の問題 | 未知の問題も含む |
| 質問 | 「Xは正常か?」 | 「なぜ遅いのか?」「何が起きているのか?」 |
| データ | メトリクス中心 | メトリクス+ログ+トレース |
監視は「あらかじめ想定した問題」を検知するのに対し、オブザーバビリティは「想定外の問題」も含めて調査できる状態を目指します。
なぜ今オブザーバビリティが必要なのか?
- システムの複雑化:マイクロサービス、コンテナ、クラウドで構成要素が増加
- 変化のスピード:頻繁なデプロイで問題の原因特定が困難に
- 分散システム:1つのリクエストが複数のサービスをまたぐ
- 未知の障害:事前に想定できない問題が増えている
オブザーバビリティの3本柱
オブザーバビリティは、3つのデータを組み合わせて実現します。
1. メトリクス(Metrics)
数値で表される定量的なデータ。時系列で記録されます。
例:
- CPU使用率:80%
- メモリ使用量:4GB
- リクエスト数:1000件/秒
- エラー率:0.1%
- レスポンスタイム:200ms
メトリクスは「何が起きているか」の概要を素早く把握するのに適しています。
2. ログ(Logs)
システムやアプリケーションが出力するイベントの記録。
例:
2025-01-01 10:00:00 ERROR Database connection failed: timeout after 30s
ログは「何が起きたか」の詳細を知るのに適しています。
3. トレース(Traces)
リクエストが複数のサービスをまたいで処理される経路と時間の記録。
例:ユーザーのリクエストが…
- API Gateway(10ms)
- 認証サービス(50ms)
- 商品サービス(100ms)
- データベース(500ms)← ここがボトルネック!
トレースは「どこで時間がかかっているか」を特定するのに適しています。
| データ | 特徴 | わかること |
|---|---|---|
| メトリクス | 数値、時系列 | 全体の状況、傾向 |
| ログ | テキスト、詳細 | 何が起きたかの詳細 |
| トレース | リクエストの経路 | どこで時間がかかっているか |
オブザーバビリティを実現するツール
オブザーバビリティを実現するためのツールを紹介します。
統合プラットフォーム
- Datadog:メトリクス、ログ、トレースを統合管理
- New Relic:APM(アプリケーション監視)に強み
- Splunk:ログ分析に強み
- Dynatrace:AI による自動分析
オープンソース
- Prometheus + Grafana:メトリクス収集・可視化
- Elasticsearch + Kibana:ログ収集・分析
- Jaeger / Zipkin:分散トレーシング
- OpenTelemetry:データ収集の標準化
オブザーバビリティの実践ポイント
1. 適切なデータを収集する
何でも収集すればいいわけではありません。コストとのバランスを考えながら、必要なデータを必要な粒度で収集しましょう。
2. データを相互に関連付ける
メトリクス、ログ、トレースをバラバラに見るのではなく、関連付けて分析できる状態にしましょう。
3. 「なぜ?」に答えられる状態を目指す
「エラーが増えている」だけでなく、「なぜエラーが増えているのか」を調査できる状態が理想です。
インフラエンジニアとオブザーバビリティ
オブザーバビリティは、これからのインフラエンジニアにとって重要なスキルです。
求められること
- 監視・ログ基盤の設計・構築
- 適切なメトリクスの選定
- アラートの設計(ノイズを減らす)
- 障害時の原因分析
- SLI/SLOの設計(サービスレベル指標)
まとめ
この記事のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| オブザーバビリティとは | システム内部の状態を把握できる度合い |
| 監視との違い | 未知の問題も調査できる状態を目指す |
| 3本柱 | メトリクス、ログ、トレース |
| 代表的なツール | Datadog、Prometheus、OpenTelemetry |
| 目指す状態 | 「なぜ?」に答えられる |
オブザーバビリティは、複雑化するシステムを運用可能な状態に保つための重要な考え方です。従来の監視だけでは対応しきれない問題が増えている今、ぜひ理解しておきたい概念です。
まずは基本的なメトリクス監視から始めて、徐々にログ、トレースと範囲を広げていきましょう!