「Rustって難しいって聞くけど、なぜそんなに人気なの?」「C++の代わりになるって本当?」
Stack Overflowの開発者調査で10年連続「最も愛されている言語」1位を獲得し続けているRust。Microsoft、Google、Amazonなど大手テック企業も積極的に採用しています。
この記事では、プログラミング初心者の方でもわかるように、Rustの特徴から「なぜ難しいと言われるのか」まで、丁寧に解説していきます。
Rustとは?安全性と速度を両立した言語
Rust(ラスト)は、Mozillaが支援して開発されたシステムプログラミング言語です。2015年にバージョン1.0がリリースされました。
Rustの目標は、「C/C++と同等の速度を持ちながら、メモリ安全性を保証する」こと。従来、高速な言語(C/C++)は安全性に問題があり、安全な言語は速度が犠牲になるというトレードオフがありました。Rustはこの両立を実現した革新的な言語です。
Rustが生まれた背景
Firefoxを開発していたMozillaでは、C++で書かれたコードのメモリ関連バグに悩まされていました。バッファオーバーフローやメモリリークといった問題は、セキュリティ脆弱性の大きな原因になります。
「安全で高速な言語があれば…」という思いから、2006年にMozillaのグレイドン・ホアレ氏がRustの開発を始めました。
Rustを使っている企業・プロジェクト
Rustは大手テック企業で急速に採用が広がっています。
- Microsoft:Windowsカーネルの一部をRustで書き直し
- Google:Android OSの開発に採用
- Amazon:AWSのインフラ(Firecracker等)で活用
- Meta(Facebook):バックエンドシステムに採用
- Dropbox:ファイル同期エンジンをRustで再実装
- Discord:パフォーマンス重視の部分に採用
- Cloudflare:エッジコンピューティングで活用
Linuxカーネルにも2022年からRustのサポートが追加され、システムプログラミングの世界でRustの存在感は増す一方です。
Rustの3つの特徴
Rustが注目される理由を、3つの特徴から解説します。
1. メモリ安全性(所有権システム)
Rustの最大の特徴は「所有権(Ownership)システム」です。
多くの言語では、メモリ管理をガベージコレクション(GC)という仕組みに任せています。しかしGCは実行時にオーバーヘッドが発生し、速度が犠牲になります。
一方、C/C++はGCを使わず高速ですが、プログラマーが手動でメモリを管理する必要があり、バグの温床になっていました。
Rustは所有権という独自の仕組みで、GCなしでメモリ安全性を保証します。コンパイル時(実行前)にメモリ関連のエラーを検出してくれるのです。
// Rustの所有権の例
fn main() {
let s1 = String::from("hello"); // s1がデータを「所有」
let s2 = s1; // 所有権がs2に移動(ムーブ)
// println!("{}", s1); // エラー!s1はもう使えない
println!("{}", s2); // OK
}
このように、Rustでは「誰がデータの所有者か」を厳密に追跡し、不正なメモリアクセスをコンパイル時に防ぎます。
2. C/C++と同等の実行速度
Rustはコンパイル時に最適化を行い、C/C++と同等の実行速度を実現します。ランタイムオーバーヘッドがほとんどないため、パフォーマンスが重要なシステムに最適です。
また、「ゼロコスト抽象化」という設計思想により、高レベルな書き方をしても実行時のコストが増えません。
3. 並行処理の安全性
マルチスレッドプログラミングでは、「データ競合」という厄介なバグが発生しがちです。複数のスレッドが同じデータに同時にアクセスして、予期しない動作が起きる問題です。
Rustでは所有権システムのおかげで、データ競合がコンパイル時に検出されます。「Fearless Concurrency(恐れのない並行処理)」と呼ばれ、Rustの大きな強みです。
なぜRustは「難しい」と言われるのか
Rustは「学習が難しい」とよく言われます。その理由を正直にお伝えします。
所有権・借用・ライフタイムの概念
Rustを学ぶ上で最大のハードルが、所有権・借用・ライフタイムという概念です。
- 所有権:データの「持ち主」を決める仕組み
- 借用:所有権を渡さずにデータを一時的に使う仕組み
- ライフタイム:データが有効な期間を示す仕組み
これらは他の言語にはない独自の概念で、最初は理解に時間がかかります。
// 借用の例
fn print_length(s: &String) { // &は「借用」を意味する
println!("長さ: {}", s.len());
}
fn main() {
let message = String::from("Hello");
print_length(&message); // 所有権を渡さず、借用だけする
println!("{}", message); // まだmessageは使える!
}
コンパイラとの戦い
Rustのコンパイラは非常に厳格です。他の言語なら通るコードでも、Rustでは「安全でない」としてエラーになることがあります。
最初のうちは「なぜこれがダメなの?」と戸惑うことも多いでしょう。しかし、エラーメッセージが非常に親切で、どう修正すればいいかまで教えてくれます。
それでも学ぶ価値がある理由
学習コストが高いのは事実ですが、一度理解すれば非常に堅牢なコードが書けるようになります。また、Rustで学んだ概念は他の言語でのプログラミングにも活かせます。
「Rustを学ぶと世界が変わる」と言う開発者も多く、エンジニアとしての思考力を鍛えるトレーニングとしても価値があります。
Rustでできること
Rustは様々な分野で活用されています。
1. システムプログラミング
OSカーネル、デバイスドライバー、組み込みシステムなど、低レイヤーの開発がRustの得意分野です。LinuxカーネルへのRust導入は、その象徴的な出来事です。
2. WebAssembly(WASM)
RustはWebAssemblyへの対応が優れています。ブラウザ上で動く高速なアプリケーションを開発でき、JavaScriptでは実現できないパフォーマンスを発揮できます。
3. Webバックエンド
ActixやAxumなどのフレームワークを使って、高速なWebサーバーを構築できます。パフォーマンスが重要なAPIサーバーでの採用が増えています。
4. CLIツール
Rustで書かれたCLIツールは高速で、シングルバイナリとして配布できます。ripgrep(超高速grep)、bat(catの高機能版)などが有名です。
5. ブロックチェーン・暗号
高いセキュリティが求められるブロックチェーンの開発でもRustは人気です。Solana、Polkadotなど多くのプロジェクトがRustを採用しています。
Rustの最新動向【2025年版】
2025年12月現在、Rustの最新バージョンは1.92.0です。Rustは6週間ごとに新しいバージョンがリリースされ、継続的に進化しています。
人気の高まり
- Stack Overflow調査:「最も愛されている言語」10年連続1位(2016〜2025年)
- TIOBE Index 2025:過去最高の13位を記録
- 大手企業での採用:Microsoft、Google、Amazon、Metaが積極導入
成長が期待される分野
- OS開発:Linuxカーネル、Windowsカーネルへの採用拡大
- WebAssembly:ブラウザでの高速処理
- セキュリティ:メモリ安全性を重視するプロジェクト
- 組み込み・IoT:リソース制約のある環境での開発
RustとC++/Goとの比較
Rustとよく比較される言語との違いを見てみましょう。
| 項目 | Rust | C++ | Go |
|---|---|---|---|
| メモリ管理 | 所有権システム | 手動管理 | GC(自動) |
| メモリ安全性 | コンパイル時保証 | 保証なし | GCが管理 |
| 実行速度 | 非常に高速 | 非常に高速 | 高速 |
| 学習難易度 | 難しい | 難しい | 易しい |
| 並行処理 | 安全(コンパイル時検査) | 危険(バグが起きやすい) | goroutineで簡単 |
| 主な用途 | システム開発、セキュリティ重視 | ゲーム、OS、組み込み | Webサーバー、インフラ |
Rustを選ぶべきケース
- メモリ安全性が絶対に必要なシステム
- C/C++並みの速度が必要だが、安全に書きたい
- 並行処理でバグを出したくない
- WebAssemblyで高速なWebアプリを作りたい
- 長期的に保守しやすいコードを書きたい
Rustを学ぶメリット【未経験者向け】
Rustは難しいと言われますが、学ぶメリットも大きいです。
1. エンジニアとしての思考力が鍛えられる
Rustの所有権システムを学ぶと、メモリの動きを意識したプログラミングができるようになります。この知識は他の言語でも役立ちます。
2. 需要が高まっている
Rustエンジニアはまだ少なく、需要に対して供給が追いついていません。希少価値が高く、年収も高い傾向にあります。
3. 安全なコードが書けるようになる
Rustで鍛えられると、他の言語でもバグの少ない堅牢なコードが書けるようになります。
4. 最先端の技術に触れられる
OS開発、WebAssembly、ブロックチェーンなど、最先端の分野でRustは活躍しています。
Rustの学習ステップ
Rustを学ぶためのおすすめステップをご紹介します。
ステップ1:The Rust Programming Language(通称:The Book)
公式の無料オンラインブック「The Rust Programming Language」が最良の入門書です。日本語訳も公開されています。
ステップ2:Rustlings
Rustlingsは、小さな練習問題を解きながらRustを学べるツールです。The Bookと並行して進めるのがおすすめです。
ステップ3:小さなCLIツールを作る
簡単なコマンドラインツールを作りながら、実践的な経験を積みます。
ステップ4:所有権・借用・ライフタイムを深く理解する
ここが最大の山場です。繰り返し練習し、コンパイラのエラーメッセージと向き合いましょう。
ステップ5:興味のある分野に挑戦
Webアプリ(Actix/Axum)、WebAssembly、組み込みなど、興味のある分野に進んでいきます。
まとめ
この記事では、Rustの基本について解説しました。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| Rustとは | メモリ安全性と高速性を両立した言語 |
| 最大の特徴 | 所有権システムによるメモリ安全性 |
| 最新バージョン | Rust 1.92.0(2025年12月現在) |
| 主な用途 | システム開発、WebAssembly、Webバックエンド |
| 学習難易度 | 高め(所有権の理解がハードル) |
| 将来性 | 大手企業が積極採用、需要拡大中 |
Rustは確かに学習コストが高い言語です。しかし、「最も愛されている言語」として10年連続1位を獲得しているのには理由があります。一度習得すれば、安全で高速なコードを書けるようになり、エンジニアとしての市場価値も高まります。
興味がある方は、まずは公式の「The Book」から始めてみてください!