「ゼロトラストってよく聞くけど、何のこと?」「従来のセキュリティと何が違うの?」
近年、IT業界で「ゼロトラスト」というキーワードを見かける機会が増えています。特にリモートワークの普及やクラウド活用が進んだことで、セキュリティの考え方が大きく変わってきました。
この記事では、ゼロトラストセキュリティとは何か、なぜ今重要なのかを、初心者にもわかりやすく解説します。
ゼロトラストとは?
「何も信頼しない」という考え方
ゼロトラスト(Zero Trust)を直訳すると「信頼ゼロ」。つまり、「誰も、何も、最初から信頼しない」というセキュリティの考え方です。
従来は「社内ネットワークは安全」「ファイアウォールの内側は信頼できる」という前提でセキュリティを構築していました。ゼロトラストでは、この前提を捨て、すべてのアクセスを常に検証します。
従来のセキュリティ(境界型防御)との違い
| 項目 | 従来型(境界型防御) | ゼロトラスト |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 社内は安全、社外は危険 | どこも信頼しない |
| 防御の対象 | ネットワークの境界 | すべてのアクセス |
| 例えるなら | 城の壁を高くする | 全員に身分証明を求める |
| 一度認証したら | 社内は自由に移動できる | 毎回確認される |
お城で例えてみよう
もう少しイメージしやすく、お城に例えてみましょう。
従来型(境界型防御)
- 城壁を高くして、城門で入場者をチェック
- 一度城内に入れば、どこでも自由に歩ける
- 問題点:城門を突破されたら終わり
ゼロトラスト
- 城壁の内外関係なく、すべての部屋の前で身分確認
- 「どこから来たか」「何をしに来たか」を毎回チェック
- たとえ城内にいても、許可された場所にしか入れない
なぜ今、ゼロトラストが必要なのか?
ゼロトラストが注目される背景には、働き方やIT環境の変化があります。
1. リモートワークの普及
コロナ禍以降、自宅やカフェから仕事をすることが当たり前になりました。従来の「社内ネットワーク=安全」という考え方では、社外からアクセスする社員を守れません。
2. クラウドサービスの活用
多くの企業がAWSやMicrosoft 365、Google Workspaceなどのクラウドサービスを利用しています。データやシステムが社内にないため、従来の境界型防御が機能しなくなっています。
3. サイバー攻撃の巧妙化
攻撃者の手口は年々巧妙になっています。一度社内ネットワークに侵入されると、内部で自由に動き回られてしまう「ラテラルムーブメント(横方向への移動)」が問題になっています。ゼロトラストなら、侵入されても被害を最小限に抑えられます。
4. 内部不正への対策
残念ながら、セキュリティ事故の一部は内部の人間によるものです。「社員だから信頼する」ではなく、必要な権限だけを与えることで、内部不正のリスクも減らせます。
ゼロトラストの基本原則
ゼロトラストを実現するための基本的な考え方を紹介します。
1. すべてのアクセスを検証する
「社内からのアクセスだから安全」とは考えません。すべてのアクセスに対して、認証と認可を行います。
- 認証:「あなたは誰?」を確認(ID・パスワード、多要素認証など)
- 認可:「あなたは何ができる?」を確認(権限の確認)
2. 最小権限の原則
ユーザーやシステムには、必要最低限の権限だけを与えます。「とりあえず管理者権限を…」というのはNGです。
3. マイクロセグメンテーション
ネットワークを細かく分割して、セグメント間の通信を制御します。たとえ一部が侵害されても、被害の拡大を防げます。
4. 継続的な監視とログ収集
一度認証したら終わりではなく、アクセス中も継続的に監視します。異常な行動を検知したら、アクセスを遮断することもあります。
ゼロトラストを実現する技術要素
ゼロトラストは「考え方」であり、特定の製品を導入すれば完了というものではありません。複数の技術要素を組み合わせて実現します。
主な技術要素
| 技術要素 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| IDaaS | 認証・ID管理 | Okta, Azure AD, Google Identity |
| MFA(多要素認証) | 認証の強化 | ワンタイムパスワード、生体認証 |
| EDR | 端末の監視・保護 | CrowdStrike, Microsoft Defender |
| SASE/ZTNA | ネットワークアクセス制御 | Zscaler, Cloudflare Access |
| SIEM | ログの収集・分析 | Splunk, Microsoft Sentinel |
用語の簡単な解説
初めて聞く言葉が多いと思うので、簡単に説明します。
- IDaaS:クラウドでID管理を行うサービス。シングルサインオン(1回のログインで複数サービスにアクセス)などを実現
- MFA:パスワードだけでなく、スマホアプリや指紋など複数の要素で認証
- EDR:パソコンやサーバーの動きを監視し、不審な動作を検知
- SASE/ZTNA:クラウド経由で安全にネットワークアクセスを提供
- SIEM:様々なログを集めて分析し、異常を検知
ゼロトラストの導入ステップ
「ゼロトラストを導入したい」と思っても、一気に実現するのは難しいです。段階的に進めるのが一般的です。
Step1:現状把握
まずは現在のIT環境を把握します。
- どんなシステム・データがあるか
- 誰がどこからアクセスしているか
- 現在のセキュリティ対策は何か
Step2:ID管理の強化
ゼロトラストの基本は「誰がアクセスしているか」を正確に把握すること。多要素認証(MFA)の導入から始めるのがおすすめです。
Step3:アクセス制御の見直し
「必要な人に、必要な権限だけ」を与えるよう、権限を見直します。
Step4:監視・ログ収集の強化
継続的な監視体制を構築し、異常を素早く検知できるようにします。
Step5:継続的な改善
ゼロトラストは「導入して終わり」ではありません。新しい脅威に対応しながら、継続的に改善していきます。
インフラエンジニアとゼロトラスト
「ゼロトラストって、自分の仕事に関係あるの?」と思うかもしれません。結論から言うと、大いに関係あります。
インフラエンジニアに求められること
- ネットワーク設計:マイクロセグメンテーションを考慮した設計
- 認証基盤の構築:IDaaSや認証システムの構築・運用
- クラウドセキュリティ:クラウド環境でのアクセス制御設定
- 監視体制の構築:ログ収集・分析基盤の構築
これから身につけたいスキル
ゼロトラスト時代のインフラエンジニアとして、以下のスキルが役立ちます。
| スキル | 内容 |
|---|---|
| クラウドの知識 | AWS、Azure、GCPのセキュリティ機能 |
| 認証・認可の知識 | OAuth、SAML、OpenID Connectなど |
| ネットワークセキュリティ | ファイアウォール、VPN、プロキシなど |
| ログ分析 | ログの収集・分析・監視 |
まとめ
この記事のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ゼロトラストとは | 「何も信頼しない」セキュリティの考え方 |
| なぜ必要か | リモートワーク、クラウド活用、攻撃の巧妙化 |
| 基本原則 | すべて検証、最小権限、継続監視 |
| 実現する技術 | IDaaS、MFA、EDR、SASE、SIEMなど |
| エンジニアへの影響 | セキュリティを考慮した設計・構築が必須に |
ゼロトラストは、これからのIT基盤を支える重要な考え方です。すべてを一度に理解する必要はありませんが、「こういう考え方がある」と知っておくことは、インフラエンジニアとしてのキャリアに必ずプラスになります。
セキュリティの知識は、今後ますます需要が高まる分野。少しずつ学んで、自分の強みにしていきましょう!